映画『悲情城市』のこと。
2014年 11月 03日
20代のなかばから30代の頃、
アジア映画をたくさんみていました。
アジアの映画は、
食べるシーンがひんぱんに出てきます。
台湾映画『悲情城市』
(ひじょうじょうし/ホウ・シャオシェン監督)
にも、印象的な食事シーンがふたつあります。
ひとつは、トニー・レオン演じる文清と妻・寛美が
ふたりで食事をしているシーン。
ごはん茶碗を手にしながら、
卓上の本を夢中で読んでいる文清のその茶碗に、
箸でおかずを取って入れてあげる寛美。
もうひとつは映画のラスト、大家族・林家の食事シーン。
次男は太平洋戦争で日本軍に徴用され、
南方へ行ったまま帰ってきていない。
三男も戦争へ行き帰ってはきたが、気が触れてしまっている。
長男はやくざとのいざこざで殺されてしまう。
トニー演じる、写真館を営む耳の聴こえない四男も、
中国国民党に抵抗する仲間の青年たちとともに
弾圧逮捕されてしまう。(「二・二八事件」)
しかし、そのような悲運に見舞われても、
残された家族の日々の生活はつづきます。
食べて、生きていかなければならない。
大家族が食事をしているシーンを
少し離れたドアのすき間から、のぞくような目線で定点撮影。
(しかも家族の一部しかうつっていません。)
ずいぶんとながいロングショットでこの映画は終わります。
50年もの日本支配が終わった直後の時代を描いているため、
日本人が登場したり日本語がきこえてくるシーンもたくさんあり、
いろいろなことを考えさせられます。
受験のために年表を暗記するだけでは、
想像することのできない台湾の市井のひとびとの歴史。
(日本のあとにやってきた中国があまりにひどかったたために、
台湾は日本という国や日本人にたいして好意的ではあるけれど、
他国に統治支配され、言語も変えられるなどということは
民族の尊厳をうばわれることであるし、
どう考えてもやっていいことではないとわたしはおもっています。)
台湾の激動の時代を描いているというのに、
深い森のなかの湖面のような静けさをたたえた
すばらしい群像映画です。
by tabicranio
| 2014-11-03 00:00
| ◎日々、旅々。〈日々の雑記〉